星がひとつ瞬いた。

       「来る」

       目を閉じたまま彼女は小さく呟いた。

       「何が来るのですか?」

       傍らに控える男が尋ねる。

       「さぁな、さて…鬼が出るか蛇が出るか…」

       「楽しそうですね」

       少し驚いたように男が言う。

       実際彼は驚いていた。こんなにも楽しそうな彼女の表情など見たことがなかったからだ。

       今目の前にいる彼らの長は滅多に感情を表さない。

       いや、彼女だけではない。

       彼ら魔術師は皆感情を表に出さぬよう自らを戒めている。

       かつて彼らの祖先の国が滅びたあの時から。

       その愚かな感情ゆえ、皆が暴走したあの時から。

       今男が表した驚きの感情も、傍から見ればそう驚いているようには見えないだろう。

       とはいえ、うかつにも心を動かしてしまったのは失敗だった。そう自分に反省を課し、改めて長を見る。

       彼らの長は髪飾りの金細工に負けぬくらいの煌めくような金の髪を流し、ローブのようなゆったりとしたドレスを着て

       深くソファに腰掛けていた。

       彼女は彼の憧れだった。彼女が長となるもっとずっと昔から。

       その彼女に仕えられる事がこの上もなく嬉しい。

       「楽しい…か。そうかも知れぬ。久方ぶりの来客だからな、浮かれもしよう」

       物思いに耽っていた男がはっと顔を上げた。

       「客?外からですか?」

       彼女はそれには答えず男に何事か耳打ちした。

       命を受け男が走り出すその後姿を追うともなく追う。

       「さてはて、私の手に負える代物だといいが…」



       そうして彼女は、口の端を上げ、妖艶に笑った。



       楽しそうに。嬉しそうに。

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