「ここです」

       そう言ってロノは立ち止まった。

       そこには何もなかった。

       藪と木だけ、他と全く変わりない。

       「ここですって…言われても」

       困った顔でセシルが辺りを見回す。

       アリステアは一歩下がって、目の前の藪をじっと見つめた。

       「つまりここにカダムへの“道”があるんだな」

       「そうです」

       アリステアの言葉にロノは頷いた。

       「でも何もないわよ?」

       一人取り残されたセシルは、不思議そうにアリステアを見上げた。

       「お前が言っただろう?たまに空間が捩れて繋がってしまうと。つまり普段は捩れていない、普通ってことだ」

       「つまり…ここには今何もない、が正解ってことね」

       「そうだ」

       「ご説明はよろしいでしょうか?」

       さっさと終わりにしろと言わんばかりの口調に、これ以上の会話を諦める。

       「いいわよ。どうぞ先に進んで」

       それでは、と彼は右手を前に出し、肩の高さまで上げた。

       何かが起こる様子はない。

       「ではどうぞ」

       しかし彼はそう言うと一歩前に出た。

       その姿が消える。

       セシルは驚きを隠して嘆息した。

       「…この向こうに行けってことね」

       「どうする?今ならまだ戻れるが?」

       「決まってるじゃない。ここまで来て私が帰れると思う?」

       「…いや」

       「あなたは帰っていいのよ。正直言ってこんな怪しげなことにつき合わせるつもり、なかったし」

       肩をすくめる。

       それに、彼女の軍師は口の端を上げることで応えた。

       「それこそ決まっている。お前を置いて帰ったとなれば、俺は騎士殿やひげオヤジ様に殺されてしまう。行くしかないだろう?」

       セシルはさらに肩をすくめた。

       「ほんと、素直じゃないんだから」



       そうして二人は彼の地へとそろって足を踏み入れたのだった。



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