「その本の著者はカダムの民に会って話を聞いたらしいんだけど、どうもたまにそうやって迷い込んでくる人がいるみたい」
表情ひとつ変えずに自分を見つめ続けるアリステアには構わず、セシルは続けた。
「封印自体は生き残りの魔術師がいつ逃げ込んできてもいいようにって魔術師だけは入れるように作ってあるらしいから、
少しでも魔力があれば入れるらしいんだけど…」
「なら話は簡単だ。生き残りの魔術師とやらがこちらの世界に残ってたってことだろう。魔力は遺伝すると聞いたことがある」
心なしかほっとしたような声でアリステアが応えた。
「その反応…あなた、私があても無いのに入れるかどうかもわからないものに突っ込んでいって、挙句、入れるまで粘る、
なんて思ってたでしょ…」
むっ、とこちらを睨むセシルにアリステアは苦笑した。
「理解力豊かで助かる」
「私、そんなことするように見える?」
怒っていたセシルが一転、顔を曇らせた。
「いや…冗談だ…とは間違っても言えないが、八割がたはしないと思っていた」
セシルの表情がまたむっとしたものに変わる。
今度は少し頬を膨らませている。それが妙に子供っぽい。
「百面相だな」
「う、うるさいわね…」
「ところで、理由は」
少し赤くなった顔を見ながらアリステアは話を切り替えた。
まぁ、これ以上からかうと後が面倒になるからな。
と、心の中で呟く。
「えっ?」
「その村に行く理由だ」
あっさりと話を元に戻すアリステアについていけず、セシルがあたふたする。
「あ、えっと、理由はね、輸送路確保のため」
「輸送路・・・まさか・・・アーヴィンガルズの道か!」
アリステアは目を細めた。
「そう、物質転位装置。彼らの最高傑作とも言える魔術装置。さすが軍師様ね」
「世辞などいらん」
眉を顰め…ることもなく淡々と言い返す。
プライドはまだ健在だった。
「つまらないわね。まぁいいわ、とにかくその道が使えれば役に立つどころじゃないわ」
「使えれば…な。たとえ村に入れたとしても、そんなものそう簡単に教えてくれるわけがない」
「そこはダメで元々よ」
きっぱりと言い切ったセシルに、アリステアは再び無言で返す。
そうしてしばらくの後、嘆息して言った。
「お前が計画的な人間なのか、それともただの無鉄砲なのか判断に苦しむのは俺だけでないだろうな。
…まぁいい、付き合ってやろう。今から塔に戻って、あげくお前の分まで責められながら荷物を運ぶのはいささか面倒だからな」
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